バージャー病(閉塞性血栓性血管炎)
バージャー病 (Buerger's Disease) は別名 閉塞性血栓性血管炎 (TAO: Thromboangiitis Obliterans) とも呼ばれる血管の病気です。
日本では約7,000人の患者がいると推計される希少疾患であり、20~40歳代の若年層に多く発症すると言われています。
詳細な原因は不明ながら喫煙との深い関連が指摘される難治性の血管炎であり、生命予後に関しては良好な一方で、重篤化による下肢切断リスクの高さが特有の問題となる疾患です。
【症状】
バージャー病では、四肢末梢血管、特に下肢動脈に多発性の分節的閉塞による虚血性の症状が生じることが特徴です。
すなわち、指先の冷感やしびれ、疼痛、潰瘍や壊死などが主な症状となります。
血管内に血栓が形成されることで深刻に血行が阻害され、「虚血」(局所的な貧血)を生じることが切っ掛けとなりますが、後述のように喫煙者や遺伝的な要因のある方、自己免疫疾患を罹患している方、さらに慢性的な歯周病を罹患している方にとっては進行が早く、虚血が重篤に劇症化してしまった結果、最終的には末梢組織の壊死を引き起こします。
重度に進行してしまった場合には指先や四肢の切断へと至るリスクが高いことがこの疾患特有の深刻な課題です。
【原因】
バージャー病の正確な原因は不明ですが、いくつかの要因が発症に関与している可能性が指摘されています。
特に煙草の喫煙習慣が強く関与していると考えられており、煙草の健康被害による血管傷害が多くの症例に共通していることが広く報告されています。
煙草の喫煙により血管内膜に負担が掛かり、脆くなった血管内膜に傷が付き、本来は傷口を塞ぐために血小板や白血球、赤血球などが集まって凝固しますが、この凝固物が血栓となり、血管の閉塞を引き起こします。
この結果、虚血(血流障害による部分的な貧血状態)を引き起こし、これがさらなる血管の炎症を悪化させていきます。
血管の炎症悪化が深刻化した結果、組織の窒息死である壊死が広がっていきます。
血管の閉塞と炎症の悪化は、太い主要血管よりも特に四肢末端のような細い末梢血管の方が閉塞しやすいため症状が深刻化しやすいため、重症化した場合には四肢末端から壊死が広がる原因となります。
【診断・検査】
バージャー病の診断は、臨床的な所見と画像診断によって行われます。
まず、50歳未満で喫煙歴があり、高血圧や高脂血症などの動脈硬化の危険因子を有しない患者であるかどうかの確認が重要となります。
次に、四肢末梢動脈の拍動や足関節/上腕血圧比(ABI)などを測定して虚血の程度を評価します。
さらに、超音波エコーや造影CTなどで閉塞部位やパターンを観察し、他の血管障害と鑑別します。
血液検査では特徴的な所見はないものの、HLA型や歯周菌抗体などが支持的情報となる場合もあります。
【治療法】
バージャー病の治療法は未確立であり、根治的な標準療法は未だなく、症状の進行を抑える保存的治療が中心となります。
すなわち、禁煙、手足の保護(特に靴擦れの防止など)、少しでも血流を改善するための手足の温めを徹底することが日常的に重要となります。
禁煙は最も重要な治療法であり、禁煙しなければどんな治療も無効であると考えられるほど重要なため、禁煙指導や補助薬などを用いて喫煙を断つことが必要不可欠となります。
また、手足の清潔や保護も大切であり、靴ずれや傷つけないように注意することが求められます。
投薬療法としては、血栓による血流悪化を改善するため、症状や場合に応じて抗血小板薬や血流改善薬、抗凝固薬などが用いられます。
重症例では、血行再建手術や交感神経節切除手術などの外科的治療が行われることもあります。
最新の治療法としては、壊死部位に新規の血管を再生させることが根治的な治療法として期待されるため、遺伝子治療や細胞移植療法などが開発されています。
【予後】
バージャー病の予後は、生命予後に関しては良好な一方で、四肢の機能を守るために早期診断と適切な治療によって病気の重症化を防ぐことが重要です。
幸いなことに、再発や悪化の見られない患者では、発症前の仕事や日常生活に復帰されている方も少なくありません。
バージャー病は難治性の血管炎ですが、重症例においても四肢切断を回避するための再生医療を始めとした新規療法の研究開発が進められており、今後の研究が期待されています。