球脊髄性筋萎縮症(SBMA)
球脊髄性筋萎縮症(SBMA)はケネディ病とも呼ばれ、成人男性に発症する希少な遺伝性の神経変性疾患です。
アンドロゲン受容体遺伝子の変異により筋力の低下や筋肉の萎縮が進行していき、症状としては30歳から50歳の間に手足の震えやけいれん、呼吸器機能の低下などが現れます。
診断は遺伝子検査によりアンドロゲン受容体遺伝子の変異が決定的となる他、神経生理学的な検査によって神経機能が検査されます。
治療法は症状の管理や緩和を目的とした理学療法や作業療法、言語療法などが行われます。
病気はゆっくりと進行し、一般的にはほぼ健常人と変わらない生命予後ですが、呼吸器合併症が重篤になることもあります。
決定的な治療法については現在開発途上にあり、遺伝子治療や神経保護薬を始めとした創薬研究の進捗に期待されています。
【症状】
球脊髄性筋萎縮症(Spinal and Bulbar Muscular Atrophy, SBMA)は、ケネディ病とも呼ばれる、成人発症のX連鎖劣性遺伝の神経変性疾患です。
10万人当たり2人程度の頻度で発症する希少疾患であり、日本国内には2,000~3,000人の患者数と推定されています。
球脊髄性筋萎縮症の症状は、通常30歳から50歳の間に始まります。
筋力の低下や筋肉の萎縮などの進行性の症状を特徴とし、筋肉の動きを制御する脳や脊髄の運動ニューロンに影響を及ぼします。
最初は手足のふるえ、けいれん、筋力の低下などが現れますが、病気が進行すると、話すことや飲み込むことが困難になったり、移動能力が低下したり、呼吸障害が起こったりすることがあります。
また、男性ホルモンの減少によって、男性の乳房の肥大(女性化乳房)、生殖能力の低下、睾丸の萎縮などの神経以外の症状も現れることがあります。
【原因】
球脊髄性筋萎縮症の原因は、男性ホルモンを受け取るアンドロゲン受容体というタンパク質の遺伝子に起こる変異です。
この変異によって、アンドロゲン受容体のタンパク質にグルタミンというアミノ酸が異常に長く連なるようになります。
この変異した異常タンパク質は神経細胞に毒性を持つため、特に運動ニューロンを時間とともに変性させていきます。
この疾患はX連鎖劣性遺伝という性別に依存した形式をとるため、主に男性に発症します。
女性は遺伝子の変異を持っていても、無症状であるか、あるいは極めて軽度の運動機能の低下しか起こしません。
【診断・検査】
球脊髄性筋萎縮症の診断は、臨床的な検査、家族歴、遺伝子検査、神経生理学的な検査などによって行われます。
遺伝子検査は診断の決定的な手段であり、アンドロゲン受容体の遺伝子の変異を特定します。
その他、神経生理学的な検査としては、筋電図(EMG)や神経伝導速度検査(NCS)などが、運動ニューロン病の証拠となります。
治療法
球脊髄性筋萎縮症の治療法は限られており、主に症状の管理や生活の質の向上を目的としています。
理学療法は、移動能力の維持や筋肉のこわばりの緩和に役立ちます。
作業療法は、日常生活の活動に適応するための支援を行います。
言語療法は、話すことや飲み込むことに困難を感じる人に有益です。
また呼吸に関連した筋力の低下によって呼吸機能が低下すると、呼吸療法が必要になることがあります。
治療法は現在開発中の段階であり、遺伝子治療や神経保護薬などを始めとした新規治療戦略の研究が進められており、今後の進捗が待たれています。
予後
球脊髄性筋萎縮症の予後は個人によって大きく異なります。
長年にわたって歩行能力や自立生活を維持できる例も一定数知られる一方で、あるいは症状の進行が早く、重度の障害に至る例も報告されています。
この疾患は通常ゆっくりと進行するため、健常人とほぼ変わらない平均寿命であり、生命予後は比較的良好です。
しかし一方で、呼吸機能の低下による肺炎などの合併症を起こすことがあり、症状によっては生命予後に深刻な影響を及ぼすことも知られており、合併症治療が重要となります。
また身体的な制限が生じるにもかかわらず、認知機能には影響しないことも知られています。
その他、生命予後やQOLに影響を与える要因については現在研究が進められており、疾患のメカニズムについてのより深い理解や、それにより効果的な治療法の開発が進んでいくことを期待されています。